ローカルハッピネスNo.03 しあわせな地域には何があるのか?

・しあわせな地域には何があるのか?

・お金としあわせの関係性

47都道府県別地域しあわせ風土スコア(岐阜県〜京都府)

しあわせ地域ケーススタディ02…神奈川県鎌倉市



しあわせな地域には何があるのか?

やってみよう、ありがとう、なんとかなる、あなたらしく、ほっとする。こんな気持ちを持つ住民(しあわせ風スコア)を増やし、こうした気持ちを後押しする土壌・地域性(しあわせ土スコア)を強化するためには、どんなまちづくりを進めていくべきなのでしょうか?どんな政策をとり、何を充実させるべきなのでしょうか?この答えを探るために行ったのが、地域を構成する以下の地域エレメント40 項目(地域環境、インフラ、行政サービスなど地域を構成する40要素)としあわせ風土スコアとの関係性の分析です。
 

 

しあわせの風を呼ぶ地域エレメント

 どんな環境、インフラ、行政サービス、コミュニティが充実している地域が、住民のやってみよう、ありがとう、なんとかなる、あなたらしく、ほっとする、こんな気持ちを呼びおこすのでしょうか。47 都道府県別の風スコアと地域エレメント40項目の充実度(「非常に充実している」「充実している」と評価している地域住民の割合)の相関係数のランキングが下の表です。相関係数が高ければ高いほど、そのエレメント項目の高さと風スコアの高さに関係性が深い、すなわち風スコアに影響力が大きい地域エレメントであることを意味します。

1位は「地域の知名度」です。知名度、すなわち地域のブランド力が高い地域には勢いがあり、しあわせな人が集まり、住民の前向きでチャレンジングな気持ち、感謝の気持ちなどが呼びおこされるようです。2位の「景観・まちなみ」、5位の「国際性」も地域のブランド力と関連する項目です。また、3位「地域活動の機会・制度」、4位「公園・運動施設」、7位「商店街・中心市街地」、9位「公民館」などのまちづくりの場や活動が、6位「お祭り・イベント」、8位「娯楽施設・制度」などのにぎわいの場が並ぶなど、地域活性化が進んでいる、にぎやかで元気があることとの相関性が高いようです。
 

 


しあわせの土を育む地域エレメント

 どんなインフラが充実している地域に、住民のやってみよう、ありがとう、なんとかなる、あなたらしく、ほっとする、こんな気持ちを後押しする土壌や地域性が根づくのでしょうか。47 都道府県別の土スコアと地域エレメント40項目の相関係数のランキングが下の表です。

0.5以上が16項目あるなど、全体的に風と比べて相関係数が高いことが特徴的です(風は0.5以上の項目はなし)。まちづくりの活動などで改善しやすいのは、今現在暮らしている人の気持ち(風)よりも、長年かけてつくられる価値観(土)のようです。

1位は唯一相関係数が0.6 を超える「地域活動の機会・制度」です。まちづくりやボランティアの活動など、地域をよくするための活動に住民が参加することは住民の幸福度を高める意味でも効果的だということです。2位「高齢者支援」、5位「小中高教育」、6位「障害者支援」、9位「医療支援」とトップ10 に4つの社会福祉関連項目があがっています。住民が安心して暮らすことができるインフラが地域のしあわせには欠かせないようです。また、4位に「自治体の情報提供」が登場するのも特徴的です。オープンな情報公開は地域にしあわせの価値観を根づかせるようです。
 

 



5指標別しあわせの風を呼ぶ、しあわせの土を育む地域エレメント

 5つの指標間で共通して登場するエレメントが多いことが特徴的です。「地域の知名度」「景観・まちなみ」「地域活動の機会・制度」が4 指標で、「国際性」「娯楽施設・制度」「自治体の情報提供」「公園・運動施設」が2 指標でトップ5 に位置しています。ブランド力があり、地域活動が活発で、娯楽の場が充実していて、オープンな町にしあわせの風は吹くようです。

 


風スコアとは異なり、指標間での違いがみられます。「ありがとう」「ほっとする」は「水・空気の質」「食材の質・食文化」「自然環境」「治安・犯罪防止」「ものづくりの質」と順番こそ違えどトップ5 は同一です。自然環境に恵まれ、安全で食やものづくりの文化に恵まれている地域に根づく価値観のようです。「やってみよう」「なんとかなる」「あなたらしく」では、「飲食・買い物店舗」「商店街・中心市街地」「娯楽施設・制度」の3 つがトップ5に含まれます。地域で活動的に暮らすための食・娯楽・買い物の場です。「なんとかなる」「あなたらしく」には「国際性」があがってきます。外国人を含めたよそものを受け入れられる文化が関連ありそうです。

 

お金としあわせの関係性

幸福論の議論をしていると必ず金銭的に裕福であることとしあわせの関係性の話題が登場します。地域が経済的に潤わなければ、住民はしあわせにはなれないのではないかという論点です。お金をもたらすものが雇用・働き口です。東京を中心とした経済の中心地であり雇用が多い町に全国から人が集まるのは昔も今も変わりません。そんな東京が風スコアランキング2位、総合ランキング5位に位置していることとも関係がありそうです。

しあわせ風土スコアと相関が高いエレメントには一度も登場しなかったお金としあわせの関係性をみてみましょう。右の表は「雇用・働き口」の充実度トップ10の都道府県です。右にしあわせ風土スコアとそのランキングも併記しました。トップの愛知は33.0%。住民の3人に一人が地域の雇用が充実していると回答しているということです。2位は東京。少し離れて広島、千葉、神奈川と続きます。9位まで政令指定都市を有する大都市圏が続きます。一方、しあわせ風土スコアをみてみると、5位の東京から42位の愛知まで大きな差があります。どうやら、雇用の充実度としあわせ風土スコアには相関性はみられないようです。

 

 

下の散布図は縦軸にしあわせ風土スコアを横軸に都道府県別労働者一人当たりの月額の現金給与額をプロットしたものです(平成25年賃金構造基本統計調査「都道府県別きまって支給する現金給与」)。相関係数は-0.446と負の相関(給与が高いほどしあわせ風土スコアは低い傾向)がみられます。左上の給与が低く、しあわせ風土スコアが高い沖縄、右上の給与が高く、しあわせ風土スコアも高い東京がぽつんと目立ちます。

 

人は稼がなければ生きていけません。仕事で成功して、金銭的に豊かになり、車・家・家電などを購入し、海外旅行を楽しむ、そんな生活がしあわせなライフスタイルとしてもてはやされていた時代がありました。しかし、近年の成熟した日本社会では、そんな考え方が絶対的なものではなくなりつつあります。地域しあわせ風土スコアとの相関が高い項目にも、自然環境や地域活動、社会福祉関連のものが多数あがっていました。第2号では、友人の数、所属団体の数などが多い人ほどしあわせであるという結果でした。日本人のしあわせ価値観が変わりつつあります。そして多様化しつつあります。そこには地域ならではのしあわせなライフスタイルをつくりだすヒントが隠れているに違いありません。